最近の治安情勢について

テーマ:「最近の治安情勢について」

平成15年2月例会
ゲスト/野田 健 先生

◆犯罪の激増への対処は検挙と環境づくり


 治安の安定が国家の存立と経済発展の基盤にある。イタリアの誘拐と窃盗が日常茶飯事だったころを実際に目の当たりにしてその観を強くしたが、実際、イタリアのように治安を乱してしまうと、回復には大変な労力と資金がかかるのである。

 近代日本の3つの大変換の最初は明治維新で、明治7年に警視庁も創設され、近代的警察制度ができた。第二の変換は第二次世界大戦の敗戦で、国家警察ではなく、自治体単位の民主警察に生まれ変わった。第三はバブル崩壊。バブル期にあらゆるものの見方が金権体質になり、警察官も例外ではなく、警察の不祥事が続くなど、制度疲労が見られた。

 では、治安の状態はどうか。犯罪の質は3K2SIHで、凶悪化・巧妙化・国際化、組織化・スピード化、そしてハイテク化している。特に凶悪化、国際化は著しく、窃盗でも人を殺してしまったり、刑務所では外国人の収監率はかなり高くなったりしている。

 犯罪の量的面では、昭和23〜24年に全国で160万件の刑法犯があり、その後の昭和時代も140万件±20万件で推移してきた。ところが平成になると、平成10年に200万件を突破し、平成14年は285万件に及ぶ。110万件のころは検挙率が60%だったが、今や全国では20%ほどに落ちている。ただ、最も多い窃盗犯の場合、一人が複数の犯行に関わっている場合も多く、訴訟法上立件を見送ったり、外国人の場合、証拠のあるものしか認めず、余罪が立件できなかったりなど、構造上の問題もある。

 さて、昨年はどんな犯罪が増えたかというと、器物損壊、侵入盗、万引き、車上狙いなどである。草がらみで、窓ガラスを割って載せてあったものを盗む、あるいは車自体を盗んで海外に輸出してしまう。さらに、ピッキングによる侵入盗の半分以上は中国人だったなどの報告もある。

 今後の治安面の大きな問題は、来日外国人の組織犯罪と少年非行への対策だ。東京の場合は、特に組織犯罪対策は大事で、外国人の暴力組織と日本の暴力団などに対応する組織対策部をつくることになっている。

 警視庁は4万5千人の警察官がおり、101の警察署で仕事をしているが、地域別に固執するのではなく、平穏な住宅地の署員を歌舞伎町などの繁華街の事件に割り振るなど、風通しをよくすることもしてきた。

 ところで警視庁は現在、留置場に困っている。平成5年に留置人数が毎日平均千人以下と底を打った後、毎年8%の伸びで留置人数が増えているためだ。警視庁の留置場の定員が2650人なのに、昨年は2700人に上った。特に外国人が増えて、取調べに時間がかかるため、留置場に置かれる日数もそれだけ増えることもある。新宿署の被疑者を町田に留置し、取調べのために毎日移動するなどの無駄な時間もかかることもある。

 歌舞伎町あたりは犯罪があまりに多く、郡台の監視カメラを取り付けてからは、路上犯罪が3割ほど減るなど、犯罪をしにくい環境を作ることも大切である。万引きを捕まえようと2、3人でローテーションを組むよりは、売り場に1人おいて、何かお探しですかと声をかけさせるなど、しにくい環境を作るほうがコストも安くつく。犯罪者を捕まえる仕組みだけに頼るのではなく、いろいろな犯罪を起こしにくい仕組みを考えていくことは今後ますます必要になっていくのではないだろうか。

野田 健 氏野田 健 氏
日本道路公団情報センター理事長
元警視庁総監

昭和19年 東京都出身
昭和42年 東京大学卒 警察庁警務局人事課採用
昭和53年 在イタリア日本大使館一等書記官
昭和63年 警視庁警務部参事官
平成元年  滋賀県警察本部長
平成7年  警察庁刑事局長
平成11年 警視総監
平成14年 現職